こんこんこん

こころ動くこと

「もうお願いだから別れてくれ」

「どうして、やだ、理由を教えて?わたし達也がいないと生きていけない。だめなところ治すからお願い」

「だからもうそういうところだよ。ごめん、もう付き合いきれない。もう連絡もしないで」

そう言われて2年間付き合った彼氏にありがちなことを言われて3か月前に振られた。後悔ばかりが頭に浮かんで毎日苦しい。ごはんものどを通らず、なかなか眠れず毎日ごろごろしてすごしている。

明日香21歳、1年前から大学休学中、彼氏なし、友達もいない。家族仲も悪い。大学の友達には影でメンヘラちゃんと呼ばれているのを知っている。小さいころからいじめられっ子で暗い性格だった。大学に入ってからは何とかこれまでの自分を変えようと頑張ってみたけど、自分を変えることはなかなか簡単じゃなく、もともと苦手だった友達付き合いに失敗してSNSでしんどさを垂れ流してしまい周りにはメンヘラ認定されてしまった。それからどうにも大学にいづらくなり大学を休学してからは、親には邪魔者扱いされ、きょうだいにも外では話しかけるなと言われた。 

そんな中、同じ大学で出会った達也だけが心の支えだった。達也とは付き合ってからすぐに明日香が達也の下宿に転がり込み同棲を始めた。いつも一緒にいて、一緒にいられないときには1日何度も連絡してしまった。ラインの返事が来ないと浮気しているのか心配で寝られなくて、達也が酔いつぶれて約束の時間に家に帰ってこられなかったときには朝まで寝られず、達也が帰ってきてから明日香は泣きわめいて怒り、達也にGPSのアプリをインストールするよう求め、いつでもどこにいるのか監視できるようにした。達也は、

「大学に戻れば?」

「バイトでもすれば?」

と何にもしない明日香に外に出るよう勧めていたが、

「そのうちね~」

などと軽く受け流していた。

 

明日香は、達也が大学を卒業したら結婚すればいいと思っていたので大学を卒業することもバイトに行くことも本気で考えてはいなかった。明日香は、達也と将来結婚して子どもを産んで、専業主婦として生活すればよいなどと将来のことばかり考えていた。当然そういう未来になると思っていたのに突然の別れである。

 

達也に別れを切り出されてから明日香は、

「将来も約束したのに無責任だ」

「こんなに好きにさせたんだから幸せにしてください」

などと何度も何度もメッセージを送り、ラインをブロックされれば、SMS、メール、手紙すべての連絡手段を使った。SNSにも未練がましい思いを垂れ流した。

 

そうした毎日を1か月ほど続けてついに疲れ切ってしまいもう達也に送る言葉がなくなってしまった。大学を休学している明日香には1か月に1度大学の保健室で面談を受けることが約束されている。最近は、ドタキャンし続けていたのでとうとう大学から親に連絡が入り、親から激怒されたことで面談に行く羽目になった。

 

 

〇×大学保健室

「明日香さん、久しぶり、顔色がよくないようだけど、どうしていたの?」

「なかなか来られずすみませんでした。とくに・・・なにも」

「そう、じゃあ、簡単なアンケートに答えて帰ってね」

「はい」

 

保健室のスタッフからそういわれて、明日香は渡されたアンケートに答えた。簡単な健康診断のようなものだった。明日香がアンケートに答えた数分後、保健室のスタッフから

「ちょっとアンケートの結果があんまりよくなくて心配だからこれから毎週大学のカウンセリングを受けてください。」

と唐突に言われた。

 

何度もカウンセリングを進められてきた明日香だったが、他人にわざわざ話を聴いてもらうなんて気が進まず、断り続けていた。明日香には達也がいたし、話し相手には困らなかった。でも達也はもういない。親にまた連絡されてもめんどくさいので明日香は素直に従うことにした。

 

 

<いやになったらやめればいいし>

そんな投げやりな気持ちでカウンセリングを受けることに同意した。